「サボテンミュージアム」 奥田民生 ― 2017年09月10日
前2作は一人多重録音だったが、今回は現在の民生バンドである、G 民生、B 小原礼、D 湊雅史、K 斎藤有太による演奏。インタビューでも、曲を簡単にして楽器の音がよく聴こえるようにしたと言っているが、たしかに音が良い。低音高音を過剰に強調しない自然なバランスで、ボリューム大き目でもうるさく感じない。
それぞれの曲は、過去の自分の曲に似たものが多い。例えば「エンジン」は「無限の風」(Fantastic OT9)、「ミュージアム」は「チューイチューイトレイン」(OT Come Home)、「俺のギター」は「快楽ギター」(Comp)、「白と黒」は「鈴の雨」(Fantastic OT9)、「明日はどっちかな」は「フェスティバル」(Lion)、なんかがすぐに思い浮かぶ。今まではそういう自己模倣的な曲は少なくて、いろいろ工夫して新しいものを作ろうとしていたようだが、今回は開き直ってシンプルな演奏だけで勝負しているように聴こえる。
歌詞の脱力感とユーモアはいつもどおり。
いつもは50分から1時間ほどある収録時間が38分しかないが、演奏がシンプルなのでこれくらいがちょうどいい。
「Live In Tokyo 2012」 奥田民生 ― 2012年06月05日
「Z II」 ユニコーン ― 2011年10月07日
「手島いさむ大百科」はギタリスト「てっしー」の自伝的語りを曲にしてしまっている。これは可笑しい。
「レディオ体操」はメロディーがほとんどない奥田民生得意のワンノート・ロック、あるいはお経ソング。プロモーションビデオの人形劇がかわいいが、これはグッチ裕三のハッチポッチステーションの真似かな。
いちばん訳わからんのが「ぶたぶた」だったのだが、イントロはどこかで聞いたことがあると思ったら、ボブ・マーリーの「Redemption Song」だった。その後、豚は豚だから豚語が分かるという歌詞で、ビートルズの「Piggies」を思い出した。そう思って聴けば、曲も明らかに似ている。「Piggies」は金持ち連中を皮肉った歌である。「ぶたぶた」のビデオにも金持ちのイヤミが出てくる。これは「ウォール街占拠運動」にも通じる金持ち批判のプロテストソングなわけだ。でも「こちょこちょこちょこちょ」って何やねん。
「メダカの格好」は童謡「メダカの学校」を下敷きに完全にデモを煽ってる。
「晴天ナリ」はヘイ・ジュードを思わせる雄大な感じの名曲。
面白いアルバムで僕はかなり好きだけど、熱心なファンしか買わないだろうな。
「Z」 ユニコーン ― 2011年06月24日
「OTRL」 奥田民生 ― 2010年08月09日
「ユニコーンツアー2009 蘇る勤労」 DVD ― 2009年08月23日
民生ソロのライブはややストイックで暗めだったが、ユニコーンは明るく楽しそうだ。僕はユニコーンより民生のファンなので、本当は民生の曲と歌を集中して聴きたいのだが、ユニコーンの方が多様で面白いことも確かだ。
昔のユニコーンはアイデアが先行してギクシャクした感じもあったが、復活後は角が取れて円熟している。新酒と15年物くらい、明らかに違う。インタビューによると、昔はみんな「オレが、オレが」だったのだが、今は「オマエが、オマエが」に変化したらしい。そういう感じがアンサンブルの良さとなって表れている。
昔の曲と新曲を半々くらいに混ぜて演奏しているが、やっぱり昔の曲の方が受けている。特に「大迷惑」「ヒゲとボイン」「すばらしい日々」といった名曲は盛り上がる。復活ユニコーンの代表的名曲はまだ生まれていないようだ。
「シャンブル」 ユニコーン ― 2009年03月05日
昔のユニコーンは面白いバンドだったが、ちょっとアイデアに走り過ぎてまとまりが欠けていたのであまり気に入らなかった。でもこのアルバムはみんな角が取れたのかうまく音が絡み合っている。リズムがゆったりと落ち着いていて良いし、奥田民生ソロ10年の音作り経験が生かされた深みのあるサウンドもとても良い。
ユニコーンは全員が作詞作曲して歌うというビートルズ・アプローチのバンドだ。昔のユニコーンの民生以外の曲は好きではなかったが、今回は他のメンバーの曲も面白い。作曲とヴォーカルが5種類もあるのにアルバムのトータル感があるというのはよく考えると凄いことだ。多様性と全体性が両立したこのアルバムは日本ロック界の金字塔である、と僕は認定します。
最近、洋邦問わずミュージシャンが復活するのがはやっているが、昔の曲で小遣い稼ぎみたいなことをされても全然面白くない。ユニコーンは15曲全部新曲で曲も演奏も昔より進化していてエライ。60歳までやると言っているからこの先も楽しみだ。
奥田民生「FANTASTIC TOUR “AGAIN” 08」 岸和田市立浪切ホール ― 2008年11月28日
奥田民生のライブはビデオ、DVDで大体観ているのだが、一度本物を観ておこうと思い、家族みんなで行った。コンサートなんていうものは15年ぶりくらいである。昔は年に1回くらいは行ったが、子どもが生まれてからは行っていない。
感想を一言でいうと、音がとんでもなくでかい。鈴鹿サーキットのパドックで聞いたレーシングカーのエンジン音ぐらいうるさかった。特にベースとバスドラムは音というより重たい衝撃で、耳じゃなくて心臓に響く。高音は割れてしまっているが、それがスピーカーの限界なのか耳のダイナミックレンジを越えているのかもわからない。
昔ドラムを叩いていたときのことを思い出して、耳にティッシュペーパーを詰めた。ドラムというのは叩いている本人が一番うるさいので、いつもティッシュで耳に栓をしていたのだった。娘にもティッシュの耳栓を渡したが、耳が気持ち悪いといってすぐにはずしてしまった。
民生のヴォーカルの音程がはずれているところがあったような気もするが、何しろ音が大き過ぎて音程なんていうものはよくわからない。なんか滝に打たれているように全身に爆音を浴びる。ロックのコンサートってこういうものなのか。よく考えたら僕が行ったことのあるのはタツローとかビリー・ジョエルとかカシオペアとか、ポップスやフュージョンばかりで、ロックは初体験だったのだった。
イントロや間奏の部分でサイケデリックな変な音を延々と聞かせる曲が何曲かあったが、そのへんは観客があまりついて行けてなかったような気がする。最近の民生は曲がポップになった反面、ポップじゃないものも伝えたがっているようで、何か無言のメッセージを感じた。
曲の合間のしゃべりは例によって言葉少なくだらだらしているが面白い。「世の中は金融危機ですが、知り合いで金融危機の影響を受けている人はいないね」と民生が言うと、ベースの小原礼が「変なことをやった人はいるけど」というようなことを言い、民生が「シー!」と指を口に当てた。もちろん小室容疑者の話だろう。
小室哲哉は飛行機に乗る時にファーストクラスを借り切ったらしいが、「お金なんかはちょっとでいいのだ」という歌詞を書く民生はスタッフと4人で機材を積んだワンボックスカーに乗って全国のライブハウスを回ったりする。今回のツアーもこんな市民会館をコツコツ回っている。日常から遊離していないところが民生の良さである。この日のMCでもぼそっと「普通に生きて、普通に死んで行く」と独り言のようにつぶやいていた。
バリライトの照明は綺麗でなかなか良かった。民生のコンサートでこれだけ派手な演出は無かったんではなかろうか。印象に残った曲は「なんでもっと」。ミディアムテンポのリズムとライティングがマッチして感動的だった。1回目のアンコールが終わったところで、2回目を求める拍手が少しだけ起きたが大半の客は席を立ってしまった。我々も疲れて「もうええわ」状態だったので帰った。
浪切ホールはキャパ1500人だからステージが近くに見えて良い。でも伝統芸能向けのホールなので、コンサート用のシートは桟敷部分に仮設されていて、通路を人が通るとぐらぐら揺れて不快だ。それにしても観客が1曲目から立つのはどうよ。僕は立てたシートに半分腰掛けた状態で聴いていたが疲れた。子どもらは僕より楽しんだようだった。
「Fantastic OT9」 奥田民生 ― 2008年01月27日
これは素晴らしい! 奥田民生の最高傑作だ。本人もはっきりそう自覚しているようで、タイトルも「すばらしい奥田民生の9作目」である。何が一番良いかというと曲がポップになったこと。ポップといってもどこかで聞いたことのありそうな曲ではなく、今までどおりオリジナリティを追求しながらポップであるところがエライ。
今までの8作ではいつも「同じ音程が8分音符で2小節くらい続くような単調なメロディ」が出てくる曲が3曲か4曲あった。ボサノバで「ワン・ノート・サンバ」という曲があるが、これはワン・ノート・ロックである。僕の知る限りユニコーンの時にはそういう曲は無い。民生はソロになってから意図的にメロディを単調にしてきたのだ。でも今回はついにワン・ノートのメロディがほとんど無くなった。
歌詞もいつもよりメッセージ性のある曲が多い。奥田民生のメッセージはややシュールだったり両義的だったりして伝わりにくいが、実は同時代的な問題意識にはかなり鋭いものがあると思う。今回はそういう曲がほとんどで、すごく面白い。
という具合に、僕はメロディと歌詞が特に進化していると思ったのだが、雑誌やテレビのインタビューを見ると本人が一番強調しているのはサウンドである。録音の技術で何かを掴んだらしい。何かアナログっぽくてパワフルな音だ。
タミオの曲にはいつも新しい何かがあるので、最初からすんなりとは飲み込めないのだが、聴けば聴くほど良さがわかってくる。今回は特に中身が濃くて、いつもより消化するのに時間がかかる。発売日から10日くらい聴き続けたところでやっと全貌が見えてきた感じがする。ええわー。
「奥田民生・カバーズ」 ― 2007年11月30日
これは面白い。いろんなミュージシャンによる民生のカバーが19曲も入っていて充実している。僕の感想は、
☆☆☆(遠回りしてでも聴く価値あり):木村カエラ、斉藤和義、スピッツ、ウルフルズ、PUFFY、HALCALI、井上陽水。
☆☆(まあまあ):B-DASH、GOING UNDER GROUND、サンボマスター、The ピーズ、チャットモンチー、中孝介、ザ・コレクターズ、detroit7、SPARKS GO GO、THEATRE BROOK。
☆(がんばろう):GLAY、DEPAPEPE。
こう整理してみると、奥田民生に人脈的に近い人たちがやはりちゃんと消化できているわけか。
GLAYは僕の好きな「野ばら」をわりと素直にコピーしているなあと思って聴いていたら、この曲の肝であるF#のコードが出てくるところで3度の音を鳴らしていないところが受け入れがたい。ギターソロも気に入らない。
DEPAPEPEはあくまでも自分たちのパターンに嵌め込んでいて、曲に対する愛情が感じられない。
奥田民生のソロの曲はシンプルだから、どの曲もカバーする人の個性がよく出ていると思う。
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